あれこれdiary

海自OBによる偏見御免徒然あれこれdiary

ポセイドンの涙(1/2)

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 ポセイドンとは、ギリシャ神話の中で描かれる海と地震を司る神で、オリンポス12神の中でも、主神ゼウスに次ぐ絶大な力を誇ります。ギリシャ神話を母体とするローマ神話ではネプチューンとして描かれています。

 ギリシャ神話やローマ神話に馴染みのない方でも、「ポセイドン」という名は耳にしたことがあるのではないでしょうか。映画や小説などのタイトルにもよく登場しますよね。

 私と同年輩の方々にとっては、「バビル二世」というアニメが思い出されるかも知れません。超能力と科学技術を駆使して地球の平和を守る少年バビル二世の3つの下僕の一つが、海を舞台に活躍する巨大ロボット「ポセイドン」でした。実直そうな面構えですね、ロボですけど。

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  また、軍事、特に核戦略に詳しい方ならば、米ソ冷戦期に米海軍の弾道ミサイル原子力潜水艦(SSBN)に搭載されていた、潜水艦発射弾道弾(SLBM)「ポセイドン」を想起されるかも知れません。SLBMとして初めてMIRV(マーブ)化された画期的なミサイルです。MIRVとはMultiple Independently-targettable Reentry Vehevleの頭文字を取ったもので、大気圏外からの再突入時に、搭載された複数の小型核弾頭を個別に切り離してそれぞれが異なる目標を攻撃できる仕組みです。ポセイドンは14個の小型弾頭を搭載していました。

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(ポセイドン)

 発射母体であるSSBNの残存性を向上させるため、すなわち、策源地である潜水艦が、より柔軟に作戦海域を選べるようにするため、ポセイドンの射程を延伸したのが「トライデント」ミサイルです。現在「トライデントⅡ」が米英両国の戦略潜水艦に搭載されていますが、この「トライデント」とは海神ポセイドンの右手に握られた三叉槍(さんさそう)つまり三又の槍のことです。冒頭の写真でポセイドンが手にしているのがそれです。やはりポセイドンなんですね。

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(トライデントⅡ)

  このように、普段は姿が見えないけれど、いざという時には海から姿を現して私たちを守ってくれる存在。「ポセイドン」にはそのようなイメージが託されているように思えます。あるいは、そんな存在がいてくれたら、いてほしい、きっといるに違いないという祈りの象徴のようなものが「ポセイドン」なのかも知れませんね。

 

 2011年3月11日、週末を控えた金曜日の午後、マグニチュード9という観測史上最大規模の巨大地震が東北地方を中心とする東日本全域に激震をもたらしました。直後には太平洋沿岸部を大規模な津波が襲い、何もかもが失われました。多くの命までも…

 

 発災からわずか6分後には、自衛艦隊司令官から、可動全艦艇・全航空機に出動命令が下されました。私も自衛艦隊(Self-deefense Fleet / SF)司令部で2度ほど勤務したことがあるのでよくわかるのですが、SFの意思決定は恐ろしく早いです。対処すべき事態が起きると、ほぼ瞬時に大方針が決まります。

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 それでも、1本の命令を発出するには関係各部との調整や所定の手続きに一定の時間を要します。ですから、6分後の命令発出など、奇跡としか言いようがありません。まだ、何も状況が把握できていない段階にも関わらず、おそらく、時間が命だとの直感の下、隷下全部隊に行動の根拠を与えることだけを目的に、「可動全艦艇・全航空機」の出動が命じられたのだと思います。

 こういう芸当ができるのが海上自衛隊の強みなんです。各艦艇は、ビークルであると同時に一つの部隊です。命じられれば単独で自己完結的に作戦を遂行する能力を持っています。ですから、作戦の内容が固まっていなくても、まずは作戦海域に向かい、その途上、作戦の細部が詰められていきます。必要な物資や人員は、航行中の艦艇にヘリで空輸できます。こうして、現場海域に兵力が集結する頃には精緻な作戦と必要な人員・物資が揃っているというわけです。

 国民の目には、まさに海から「ポセイドン」が現れたようなイメージに映ったのではないでしょうか。

(2/2)へ続く。

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