あれこれdiary

海自OBによる偏見御免徒然あれこれdiary

東京音楽隊の第58回定期演奏会に感動しました

 海上自衛隊東京音楽隊の第58回定期演奏会に行ってきました。

 六本木一丁目の駅からサントリーホールまでの様子は、既に書いたとおりです。

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 実は、サントリーホールの大ホールエントランス上部に、パイプオルゴールというものが設えられていて、毎日正午に自動演奏されるのですが、その日に大ホールで行われる演奏会の開場時間にも、美しい音色を聴かせてくれます。

https://www.suntory.co.jp/suntoryhall/facility/map.html

 今回、その様子を撮影することができましたので、興味のある方は覗いてみて下さい。大ホールのパイプオルガンと同じ材質のパイプを37本使用したオルゴールの柔らかく心地の良い旋律を楽しめます。

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 パイプオルゴールの音色とともに扉が開かれた大ホールへ。

 私にパンフレットを手渡して下さったのは、先週横須賀で行われた「横須賀自衛隊ふれあいフェスタ2019」の演奏会で前半の指揮を担当された、館山康弘・3等海尉でした。「あ、だてやまさん」と声掛けすると、「え?名前知ってるの?」という顔でちょっと驚かれました。ステージ上での紹介で「だてやま」と聞こえるのですが、それで正しいのかどうか確認させて頂きました。間違いなく「だてやま」と読むそうです。

 私の席は、2階Pブロックです。つまり、ステージの後ろから演奏会を聴くことになります。最初は「ステージ裏?そんなのありか」とも思いましたが、よく考えてみると、隊員の皆さんと視界を共有しながら演奏を楽しむなんて、なかなか経験できることではありません。逆に期待感が高まってきました。

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 ホールの公式HPによりますと、『サントリーホールの設計にあたっては「世界一美しい響き」を基本コンセプトに掲げ、第一線で活躍する指揮者や演奏家はもとより音楽を愛する各界の人々の意見が幅広く取りいれられました。大ホールは、日本では初のヴィンヤード(ぶどう畑)形式。全2006席がぶどうの段々畑状にステージ(太陽)を向いているため、音楽の響きは太陽の光のようにすべての席に降り注ぎます。音響的にも視覚的にも演奏者と聴衆が一体となって互いに臨場感あふれる音楽体験を共有することができる形式です。』とのことです。やはり期待が高まります。

https://www.suntory.co.jp/suntoryhall/facility/hall.html

 さて、この演奏会については、事前情報に基づき「こんな感じかな」という記事をひと月前に書きました。さぁ、どうだったのでしょうか。

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 では、セットリストに沿って演奏会の様子をお伝えしようと思います。

 定刻になり、左右の袖から隊員の皆さんがステージ上に現れますと、会場から大きな拍手が沸き起こりますが、まだステージ裏というポジションに全く馴染んでいない私は何となく座りの悪い心地です。皆さんが席に着くと、当たり前の話ですが、全員が向こうを向いています。不思議な感じです。でも、何だろうこの感じ、ちょっと不謹慎な言い方で申し訳ないのですが、まるで自分の作った箱庭にオーケストラのフィギュアを並べているような、妙に楽しい気分になってきます。今から、オーケストラと同じ光景を見ながら演奏会を楽しむのです。

第一部

 第一部では、アニバーサリーを意識した選曲になっていました。1曲目の喜歌劇「天国と地獄」序曲は、ジャック・オッフェンバックの生誕200周年、2曲目の「ハンガリー行進曲」ではルイ・エクトル・ベルリオーズの没後150周年、3曲目の「フィンランディア」では日芬外交関係樹立100周年、そして4曲目の「2つの交響的断章」ではヴァーツラフ・ネリベルの生誕100周年といった具合です。

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 さあ、私にとっては初めての「定期演奏会」が始まります。

 左袖(私から見ると右側)から樋口好雄隊長が登場すると一段と大きな拍手喝采が巻き起こります。いつもながら大人気です。隊員を起立させ、会場に向かって一礼すると、くるりと身を翻してこちらを向き、タクトを構えます。「お!」そうなんです、この席だと指揮する樋口隊長の表情が全部わかるんです。後ろから見ていても、躍動感のある樋口さんの指揮は格好良いのですが、正面から見れるなんて、何と幸運なことか。

 

①喜歌劇「天国と地獄」序曲

 大変有名な曲ですし、特に終盤の軽快なメロディは誰もが聴いたことのあるものだと思います。オッフェンバックは、かつて三宅由佳莉さんが定期演奏会で披露された「オランピア」(「ホフマン物語」)の作曲者でもあります。

 樋口隊長のタクトが風を切り、演奏が始まった途端に背中がゾクっとしました。初めて生で聴く東京音楽隊のクラシック。今から本当にオペラが上演されるのではないかと思えるような演奏で、響きあう音を体中で感じることができます。「世界一美しい響き」を誇るホールの性能を最大限に活かし切っている感じです。

 前半では横野和寿さんのクラリネットや加茂政輝さんのオーボエなどのソロパートも多く聴きどころが沢山ありましたし、終盤、お馴染みの軽快なメロディでは会場全体が静かに沸いている感じが伝わってきます。そしてクライマックスへ。演奏が終わるや万雷の拍手です。1曲目で、しっかり聴衆の心を掴み、次への期待を高めてくれました。

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 ところで、普段、前方から見ている時でも、ステージ奥のパーカッションパートは次々と色々な楽器を演奏して忙しそうなのですが、今回目の前で、しかも上からその様子を見て本当に驚きました。一体何種類あるのかわからない様々な楽器の間をめまぐるしく行き来しながら演奏されています。凄いな、この人たち…もう、畏敬の念を抱かずにはいられません。

 それから、ティンパニの演奏を初めて目の前で拝見しました。力強く連打した直後に手でヘッド(打面の膜)をパッと抑えて制振する動きは前から見ていてもわかるのですが、当面使わないケトル(筐体)のヘッド上に、パンケーキのような制振板と思われるものを置くのを初めて知りました。隣のケトルの振動に共鳴して、鳴ってはならない音が響くのを抑えるためなんだと思います。忙しく叩きながら、制振板の操作も矢継ぎ早にしなければならないんですから、ティンパニの演奏は一筋縄ではいきませんね。

 なんか、どんどんPブロックの魅力が増していきます。

 

 さて、1曲目が終わり、今回のMCである俳優の村上新悟さんが大きな拍手に迎えられて登場しました。村上さんは、昨年の定期演奏会に引き続き2度目の出演です。昨年の定期演奏会では、行きつけの店がたまたま同じだった樋口隊長と意気投合し、「演奏会に出てみない?」「いいですねー」のようなノリで出演が決まったとの経緯が紹介されたそうです。嘘みたいな話ですけど、いかにも樋口さんらしいエピソードですよね。それに乗ってくる村上さんも只者ではないな。

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 3等海佐の階級章を両袖に巻いたモーニングタイプの演奏服姿に身を包んだ村上さんが語り始めます。低音のイケボです。静かに真面目に自己紹介と来場への謝意を述べた後、たった今演奏が終わった「天国と地獄」について紹介されました。「なんか、最後の方はカステラのコマーシャルを思い出しますね」と笑いを取り、

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「このところインフルエンザが猛威を振るっていますが、この中にインフルエンザに罹っている方いらっしゃいますか? いないですよねー」と、ちょっと砕けた質問に、会場の雰囲気も緩みます。次の瞬間、ステージ上の音楽隊員が全員手を上げ、振り向いた村上さんが「えーー? 集団感染ですか? 帰ってください!」と言うと、みんな席を立って帰ろうとするので、村上さんが「帰らないでください!」…会場は大爆笑となり、開演当初の双方の緊張が一気に解けました。こういうアイスブレイカーが大切ですね。

 他にも「この服、気に入ったのでこのままシレッと着て帰っちゃおうかな」などと言っては会場を沸かせていました。

 村上さんは、昨年のNHK大河ドラマ西郷どん」に出演され、明治元勲の一人である陸軍中将・山縣有朋の役をされました。その話に触れ、「ドラマでは陸軍中将の軍服を着、今はこうして海上自衛隊の制服を着ていますが、両者に共通することがあります。それは、命をかけて国を守ろうとする者が着る制服というものはずっしりとした重みがあるということです」軽口を叩いていた村上さんからいきなり飛び出した胸に響く言葉に、虚を突かれた会場は拍手をするタイミングを逃してしまいます。一瞬そわそわした微妙な空気になりましたが、村上さんがすかさず「私、今日初めていいこと言いました」と水を向けたことで、みんな笑いながら拍手をすることができ、スッキリしたという塩梅です。この辺はさすがだなぁ。

 昨年に引き続きの出演ということもあって、今回の定期演奏会には村上ファンからの応募が殺到したようです。当然、倍率も上がったでしょう。でも、こういう形で村上さんが応援して下さるることにより、そのファンの皆さまの間にも東京音楽隊海上自衛隊への共感の素地が生まれ、新たな支持層が広がっていくのは、東京音楽隊のファンとしてこの上もない喜びです。

 

 その村上さんから、2曲目の紹介がありました。

ハンガリー行進曲

 この曲は、「ファウストの劫罰(ごうばつ)」第1幕の劇中曲です。「ファウスト」を作曲中だったベルリオーズは演奏旅行で訪れたブダペストで、現地の伝統楽曲である「ラコッツィ行進曲」を管弦楽用にアレンジした「ハンガリー行進曲」を披露し、大喝采を浴びます。よほど嬉しかったのでしょう、作曲中の「ファウスト」にどうしてもこの曲を入れたくて、ファウストの舞台をドイツからハンガリーに書き換えてしまったそうです。そこまでやるか、というお話ですが、そういう強引さ、身勝手さというものが優れた芸術を生み出してきたという面はありますよね。ベルリオーズがフランス人だったからこだわりが無かったのかもしれませんけど。当時は何かと批判もあったかもしれませんが、理屈を超えた人間臭いエピソードって魅力的だと思います。

 曲自体もとても魅力的です。東京音楽隊による演奏は、優雅さと力強さが繰り返し吹き寄せる漣のような心地良さで身体に染み渡っていきます。前半では、ソロパートの繊細な旋律の末尾をオーケストラが受け止め、柔らかく包み込んで絶妙なアクセントになるという、コントラストの効いた演奏、そして後半は次第に力強いフル演奏に広がっていきます。素晴らしい。人が何故音楽を求めるのかが分かった気がします。

 下のリンクは、解説も含めたページにつながっています、よろしければ飛んでみてください。

www.worldfolksong.com

 再び村上新悟さんが登場し、3曲目「フィンランディア」の紹介をされました。

フィンランディア

 シベリウスがこの曲を書いた1900年頃、フィンランド大公国は帝政ロシア支配下に置かれその圧政に苦しんでいました。ロシアからの独立運動も起きるような世相の中で書かれたこの曲は、フィンランドの大衆を鼓舞しましたが、愛国心が昂まるのを恐れたロシアにより上演禁止処分となった、とのことでした。

 いつの世も、ある国に愛国心が昂まるのを恐れるのは敵対的な外国です。我が国で「愛国心」を危険視する人々の心の内がどのようなものなのかは推して知るべしでしょう。ちょっとフィンランドについて書かせていただきます。

 フィンランド親日国として知られていますよね。地勢的にロシアの外海に向けた膨張圧力を直接受けざるを得なかったという共通点がその理由の一つかも知れません。それでも海という緩衝材がある我が国はまだ恵まれています。フィンランドはご存知の通り南北に細長い国土の東側全てがロシアと国境で接しています。東西方向の戦略縦深を欠くため、大軍で押し込まれるとひとたまりもありません。

 若い頃に「戦う北欧」という本を読みました。外務省OB・武田龍夫さんの著書ですが、フィンランドについて書かれた章が今でも強く印象に残っています。特に1939年11月から1940年3月まで、ソ連との間で戦われた「冬戦争」のくだりです。フィンランド軍から発砲を受けたとの言いがかりをもとに、ソ連フィンランド軍の3倍の兵力を一気に投入しました。国際的非難を浴びる中、ソ連軍のスポークスマンは「3日です、3日で終わりますから」と弁明にもならない弁明をしたそうです。ところが地勢的にも兵力的にも圧倒的に不利なフィンランド軍はマンネルハイム将軍の指揮の下、徹底的に抗戦してソ連軍を散々苦しめます。3日どころか、予想もしない何ヶ月もの苦戦を強いられたソ連は、フィンランドの国土の1割を占領しただけで休戦せざるを得ませんでした。

 第二次世界大戦が勃発すると、フィンランドソ連に対抗するため、日独伊の枢軸国側について参戦し、ドイツ軍とともにソ連と戦い、冬戦争で失った領土を奪い返します。やがてソ連軍の猛烈な反攻によって押し返されますが、この時もフィンランド軍は勇戦奮闘しソ連側に大損害を与え、その進撃を大幅に遅らせています。この結果、ドイツが降伏する前にソ連との間で休戦を成立させることに成功したため、第二次世界大戦の敗戦国であるにもかかわらず、戦後も東欧のように共産化されることなく独立を保つことができたのです。冷戦中は「フィンランド化」などという、ちょっと無礼な言われ方もしましたが、限られた国力の中で、それこそ死力を尽くして保った独立に心からの拍手を贈りたいと思います。

 超大国の圧力に晒され続けながらも、自分たちの独立は自分たちで守り抜くのだという、強烈な自存自衛意識を国民性として持つフィンランド。そのことに思いを致しながらこの曲を聴くと、また格別な感動が得られるのではないでしょうか。

 フィンランドには思い入れがあるものですから、ちょっと筆が滑り過ぎました。すみません。

 村上新悟さんがこの曲の紹介をする傍ら、左袖から静かに姿を現した方がいます。三宅由佳莉さんです。正面からステージに向かって指揮台の左隣に置かれた椅子に着席されました。歌唱入り?この曲は何度か聴いたことがありますが、歌唱の記憶はありません。期待感が高まります。

 出だしは、不条理な抑圧状態に置かれている哀しみや息苦しさに、時として顔をもたげる諦めが綯い交ぜになった感情の表皮の下から、湧き上がる機会を窺っている何か別のものを感じさせる重々しい響きです。

 やがて、曲調は空へ抜けるような解放感溢れるものへと展開していきます。この曲ではティンパニの演奏がものすごく迫力ありました。今回は、座席の関係もあるのでしょうけど、何かとティンパニが印象に残る演奏会でした。

 そして、下の動画では5分ちょっと過ぎからの嫋やかなメロディラインの部分で、三宅由佳莉さんの歌唱が入りました。もちろん顔の表情は見えませんが、全身で歌を表現される方です、その後ろ姿からさえ十分に伝わるものがありました。そして何より、三宅由佳莉さんが歌われる時の観客の様子を初めて見ました。これまで何度か、ステージに対面する席で三宅さんの歌唱を聴き「会場を制圧している」と表現してきました。実際にそう感じたからです。今回、そんな会場の様子を正面から見たのです。なんて言えばいいのか、フリーズしている? 動きのない世界に見えました。一瞬たりとも目を逸らすまいとしているのか、こんな風に「制圧」されちゃうんですね。

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 歌唱の入った動画は見つかりませんでしたが、歌唱部分だけ収録したものがありましたので下に貼っておきます。雰囲気がお伝えできればと思います。もちろんソプラノのパートなのですが、この動画で歌っておられるのはどうやら男性のようです。言われないとわからないです(分かる人には分かるのかな?)。

(この動画は非公開とされた様です)

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 感動の演奏が終わり、村上新悟さんによる曲紹介が続きます。この間、ステージ上に5〜6名の方が新たに登場されました。太田紗和子さん、赤嵜尚子さんも、この時初めて顔を出されました。ピアノ(そのほかチェンバロ?のようなものも)が置かれていたので太田さんが登場されるのは分かっていましたが、赤嵜さんは今日はお休みなのかなと思っていたところでした。太田さんは最初チェンバロ(なのかな?)に付かれました。ステージ裏にいたおかげで、左上腕部に輝く1等海曹の階級章を初めて見ることができました。やはり重みがありますね。

  ④二つの交響的断章

 この曲は、クラシックナンバーの中でも20世紀に書かれた新しいものですから、映画音楽のような、現代的要素が随所に感じられるような気がしました。

 不協和音ではありませんが、聴く者の心を少し不安にするような、心をどっちに向けたらいいのか戸惑うような、それでいてどんどん惹きこまれていく、そんな曲でした。

 この曲では、赤嵜さんをはじめとするマレット部隊の演奏が目を引きました。出だしもそうですが、曲の要所要所で繰り返し入るシャープな連打。正面からご覧になっていても、とても印象的な音だったと思いますが、上から覗き込むように様子を拝見した私は、まずそれがトリオでの演奏であることに驚きました。あれをトリオで合わせるんです。3人の凄い集中力が肌で感じられ、見ている方まで緊張します。

 また、横野和寿さんのクラリネット、大川好さんのフルート、清水恭子さんのバスクラリネットなどのソロパートも楽しむことができました。

 岩田有可里さんのコントラバスや清水さんのバスクラリネットなど、低音部が足元から伝わってきます、振動としてではなく、足から音として伝わってくるんです。不思議な感覚です。これもPブロックならではなのでしょうか。

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 拍手喝采の中、樋口隊長が退場され、ここで15分間の休憩に入りました。 

 

第2部

 第2部のセットリストは下のとおりです。2曲目(通しで6曲目)の椿姫では三宅由佳莉さんの本格的ソプラノ歌唱が用意されています。

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⑤華麗なる舞曲

 第2部の冒頭は、クロード・トーマス・スミスによる「華麗なる舞曲」です。この曲は、演奏会のリーフレットにも記載されていたので、事前記事で既に紹介させていただきましたが、吹奏楽曲としては最難曲と言われる曲だそうです。米国における吹奏楽の最高峰と目される米空軍軍楽隊のために書かれた曲で、C.T.スミスが米空軍軍楽隊に突きつけた挑戦状のようなものなのでしょうか。その難曲に東京音楽隊が挑戦したわけです。今回の目玉曲と言って良いのではないでしょうか。

 両袖から隊員のみなさんが入場して来られる際、おや?と思ったことがありました。トランペット奏者の藤沼直樹さんが、通常のトランペットの他に、小ぶりなピッコロトランペットを携えています。きっとソロ演奏があるに違いありません。それから、私たちの背後、パイプオルガン前の通路に譜面台がいくつか置かれています。トリフォニーホールでも、パイプオルガン前の譜面台にトランペットとトロンボーンの奏者が並び、「トランペット・ヴォランタリー」の演奏でコンサートの幕を開けました。今回も、同じような展開になるのでしょうか。

 この曲が最難曲と言われる所以は、どうやら音符が混み合っているかららしいのですが、素人の私にはよくわかりません。とにかく、そんな曲なので、個人個人の高いスキルが求められるうえ、ハーモニーとしてまとめ上げるのが難しいのかな、と勝手に想像してます。

 出だしから心を持っていかれるような軽快で心沸き立つ曲です。難曲なのでしょうが、「別に」という感じで東京音楽隊は普通に演奏しているように見えます。そこが素人なんでしょうね。あるいはそう見せるのがプロなんでしょうね。

 この曲では、大川好さんのフルートソロ、それから藤沼直樹さんのピッコロトランペットでのソロがありました。今回の演奏会では、フルートのソロパートは全て大川さんが担当されていました。

 演奏が終わり、樋口隊長がソロ奏者の紹介をされましたが、藤沼直樹さんについては2回立たせて紹介していました。2回目の紹介の時は、後ろ姿でも照れ臭そうにしているのがわかりました。ひょっとしたらご家族が会場におられたのかも知れません。樋口隊長の気遣いはいろんな形で現れますから。素晴らしい指揮者であると同時に素晴らしい指揮官でもあるんだと思います。

(2020年6月に、この日の動画がアップされました(╹◡╹))

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 さあ、次は三宅由佳莉さんのソプラノなのですが、なぜか樋口隊長は指揮台を降り、左袖へと退場されました。入れ替わりにステージに現れた村上新悟さんが曲紹介を行いましたが、そこで、この曲は太田紗和子さんのピアノ伴奏のみで三宅由佳莉さんが歌われることがわかったのです。

⑥「椿姫」より、不思議だわ!〜ああ、そはかの人か〜花から花へ

 太田紗和子さんがチェンバロ(かな?)からステージの一番前に置かれたグランドピアノに移ります。いつもなら荒木さんのハープが置かれているあたりです。今回荒木さんのハープはいつもより奥に置かれていました。

 正直申しますと、この曲に関しては正面から観たかったです。でも、表情が見えないからこそ、その全身を使った表現力や歌唱そのものに、より強く意識が向きます。

 私に歌唱技術のことなどわかりようもありませんが、三宅さんが全身全霊で歌われていることだけはわかります、伝わってきます、そして感動します。

 背中しか見えない三宅さんですが、その自由で伸びやかな美しい歌声が、大きなホールの隅々まで満たしていきます。最後に両手を広げて歌い切る様は、まさに圧巻です。

 会場からは割れるような大喝采が巻き起こりました。私は暫し呆然としてしまい、ブラボーがかかったかどうかすら覚えていません。三宅由佳莉さんは、ソプラノ歌手であり、本来こういう世界にいる人なんだということが、いやという程よくわかりました。

 太田紗和子さんと三宅由佳莉さん。今から10年前、奇しくも相前後して入隊されたお二人が、今回の定期演奏会で協演するというこの企画は、隠喩的にお二人の10周年記念ミニコンサートと受け止めることも可能ではないかと思いました。だからこそ、太田さんのピアノが一番前に置かれていたのではないでしょうか。個々の隊員が10周年を迎えたからといって、部隊として何かするということは通常ありません。あ、永年勤続表彰はされますので、今年の自衛隊記念日には新しい防衛記念賞(通称”赤い狐”)が加わりますが、部隊としてお祝いというものはありません。でも、10周年を意識している多くのファンへの、これはアナウンスなしのサービスだったのではないか思います。

 三宅由佳莉さんの歌唱がどんな感じだったのか、下の動画で追体験してみてください。マリア・カラスの歌声です。 

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 ここで、村上新悟さんが「時間が経つのは早いもので…」と、次の「イエローストーン・ポートレイト」が最終曲であることを告げます。 そして、「この演奏会を通じて、海上自衛隊のことを少しでも身近に感じ、心の中でエールを贈っていただけたら幸いです」私はもちろん、いつもの通り先頭切って拍手をしました。ところがこの時、前方の観客席の方からも、いくつか拍手の打ち出しが聞こえたのです。なんだか嬉しくなりました。私と同じように考え、行動しておられる方々がいらっしゃるのだということが確信できたからです。これもPブロックに座ったおかげですね。

 さて、プログラム最終曲「イエローストーン・ポートレイト」です。

 交響曲第4番「イエローストーン・ポートレイト」

 この曲も、事前情報がありましたので先の記事で紹介させていただいた通りですが、イエローストーンとは米国にある世界最初の国立公園で、四国の半分ほどの広さがあり、世界最大の間欠泉があるなど、人気の観光スポットです。

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 バーンズ氏の交響曲第4番は、もともと管弦楽団のために書かれた曲を吹奏楽団用に編曲し直し、それを正式ナンバーとしたものだそうです。バーンズ氏の吹奏楽への思い入れが感じられますね。アメリ吹奏楽界の大御所であるジェイムズ・バーンズ氏ですが、樋口好雄隊長とは古馴染みで、一昨年の夏、バーンズ氏が来日した際には、樋口隊長が「遊びに来てよ」と声掛けしたことで、氏の東京音楽隊訪問が実現したそうです。この辺の社交性は樋口隊長の持ち味ですね。部隊訪問の後、ラーメン好きのバーンズ氏と共に、何人かの隊員がラーメン店に行ったそうですよ。カジュアルな付き合い方ができる間柄であることがよくわかりますね。

 

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 そんなバーンズ氏の作品を東京音楽隊が演奏します。第1楽章から第3楽章までを通しての演奏です。

 第1楽章:イエローストーン川を下る 

 静かな出だしは、谷合にゆっくりと訪れる朝の気配の中、両岸に迫る岩壁の間を下る、少し張り詰めた雰囲気です。イエローストーン川は、イエローストーン公園を北に向かって流れイエローストーン湖に注ぎますが、途中には急峻な流れや大きな滝もあります。そんな風景が思い浮かびますね。やがて、視界は大きく開かれ、広大なイエローストーンの景色が広がる、そんなイメージが浮かんで来ます。

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 第2楽章:カモシカスケルツォ

 スケルツォとは、軽やかでちょっとユーモラスな雰囲気がある、テンポの速い器楽曲のことです。確かに早いテンポで演奏され、カモシカの跳ね回る姿が見えるようです。

 この曲でも、ソロパートが曲にアクセントをつけ、彩り豊かな演奏を楽しむことができました。赤嵜尚子さんのソロパートもありました。マリンバ(かな?)の超速演奏でしたが、鍵盤を見ながら演奏を楽しむことができるのは、やはりステージ周りの上階席ならではですね。

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 第3楽章:インスピレーション・ポイント

 出だしで、いきなり私たちの後方頭上からファンファーレのようなトランペットの重奏が響きだしたので驚きました。振り返ると、パイプオルガン下の通路に、トランペット奏者が並んで演奏しています。さっき見た譜面台のことをすっかり忘れてました。

 先ほどのスケルツォとは対照的に、イエローストーン公園の壮大なイメージが広がります。吹奏楽の美しさを存分に引き出し、聴く者の心を魅了してやまないこの曲からは、バーンズ氏のイエローストーン公園と吹奏楽への深い愛情が感じられました。そして、東京音楽隊の研ぎ澄まされた演奏が、この曲の持ち味を余すところなく表現していたように思います。素晴らしい曲、そして素晴らしい演奏でした。

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 拍手喝采に送られて、樋口隊長は左袖に下がりますが、鳴り止まない拍手に応えて再び登場、村上新悟さんも現れます。村上さんが「たくさんの拍手をありがとうございます。今日の演奏会、もちろんアンコール曲を用意していますよ!」と言うと、会場はわきあがります。「NHK大河ドラマ西郷どんメインテーマ」…なるほど、なるほどなるほど、これほどこの演奏会に相応しいアンコール曲はないですね。東京音楽隊が地方公演も含め、昨年1年を通じてなんども演奏してきた曲でありますし、司会の村上新悟さんが重要な役で出演されていましたし、村上ファンもたくさんいらっしゃったでしょうから。

アンコール1曲目 西郷どんメインテーマ

 この曲は、もうお馴染みですよね。三宅由佳莉さんは、今回3度目の登場で後半のヴォカリーズを熱唱されました。もう、何も言うことはありません。ただただ、ありがたいと思うばかりです。下の動画は昨年12月18日に横須賀芸術劇場で行われた防衛セミナーでの演奏会の際に撮影したものです。

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 大きな感動の中、演奏を終えた東京音楽隊に、360度全ての観客から万雷の拍手が贈られます。樋口隊長と三宅由佳莉さんは、それぞれ深々とお辞儀をして、樋口隊長が退場、続いて三宅さんが再びお辞儀をしてから続きました。

 それでも、会場の拍手は鳴り止みません。鳴り止まないばかりか更に大きくなっていく感じです。もちろん更なるアンコールを求める拍手です。

 鳴り止まない拍手に応えて、樋口隊長が再び登場、観客席に向かって、「本当にこれが最後だからね」と言わんばかりに、人差し指を立てて、念を押すように何度も示します。サプライズの多い東京音楽隊ですが、それだけに「今日はないからね」と言っているようにも見えました。つまり、次は定番どおり「軍艦」で締めるのだと。

アンコール2曲目 行進曲「軍艦」

 力強い出だしで既に感動してしまうのですが、やはり「軍艦」を裏から聴くという貴重な体験をさせていただきました。いつ聴いても心が沸き立つ「軍艦」、指揮台の樋口隊長が前方の客席の方を向き手拍子を求めます。会場全体が一つになって盛り上がっていきます。この感じもたまりません。今回は、歌唱なしでストレートに吹奏で締めました。歌唱があっても、なくても、それぞれに素晴らしいです。

 今回は、パイプオルガン下のトランペット部隊が再び演奏に参加し、私たちPブロック民は、上下から包まれるような形で「軍艦」を堪能することができました。やっぱりPブロックでよかった。

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 演奏が終わり、湧き上がる喝采に応えた樋口隊長は、左袖に向かって手招きします。三宅由佳莉さんと村上新悟さんが登場し、お二人で深々とお辞儀をすると、一段と大きな拍手が湧き上がりました。

 樋口隊長、村上新悟さん、そして三宅由佳莉さんが再び左袖へ下がりますが、まだまだ喝采は止みません。会場にライトが灯り、ステージ上で威儀を正していた隊員のみなさんが手を振り始めたので、ようやく会場が落ち着きを取り戻しました。隊員のみなさんが私たちのP席の方にも手を振ってくださったのが嬉しかったです。

 

 今回、東京音楽隊の演奏会を始めて体験された方も少なからずおられると思いますが、おそらくびっくりしたんじゃないでしょうか。私は演奏会の途中、何度も、たくさんおられるであろう、そんな方々に対して「すごいでしょう?」と心の中で呟き、とても誇らしく感じました。こんな素晴らしいオーケストラを応援していることが誇らしかったのです。みなさんも同じ気持ちじゃないでしょうか。

 12月のトリフォニーホールでの演奏会も完全な満足感を覚えましたが、今回も同じです。位置付けや構成は全く異なりますが、本質は同じなんだと思います。

 東京音楽隊の皆さま、素晴らしい演奏をありがとうございました。

 

 いかがでしたでしょうか、定期演奏会の様子が伝われば良いのですが。

 今回のレポートは、正直言って手こずりました。何しろ初めて手がける本格的なクラシックコンサートのレポートだからです。音楽的素養のない私にとっては、Tシャツ・ハーフパンツ姿で富士山登頂を目指すような感じでした(富士山に登ったことはありませんけど/(^o^)\)。

 ですから、この道に詳しい方々からは「噴飯もの」と嗤われたり、意味不明と批判されるかも知れませんが、それでも構いません。嗤われたり批判されることよりも、嗤われ批判されることを恐れて自分を曲げたり、何もしないことの方がよほど恥ずかしいことだと私は思うからです。自分が信じる道を精一杯歩く、それだけです(╹◡╹)