あれこれdiary

海自OBによる偏見御免徒然あれこれdiary

潜水艦「おうりゅう」と、三宅由佳莉さんの「国歌独唱」

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【UpDated 9 Nov. 2018】

 先日(2018年10月4日)、海上自衛隊の潜水艦「おうりゅう」の命名進水式が、三菱重工神戸造船所で行われました。「そうりゅう」型潜水艦の11番艦となる同艦は、今後艦内設備や兵装などを整える艤装(ぎそう)工事に入り、2020年3月に竣工、海上自衛隊に引き渡されると同時に、自衛艦旗を拝受して国防の任に就くことになります。

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(そうりゅう型潜水艦)

 

 以前、自衛艦旗授与式か何かの記事でも書きましたが、艤装工事は、造船所の技師や職人さんたちと、海上自衛隊の「艤装員」たちとの共同作業となります。艤装員と言うのは、平たく言えば、その艦の最初の乗組員に予定されている人たちで、艤装員長が初代の艦長となります。

 「そうりゅう」型潜水艦は、在来型の「おやしお」型潜水艦と比べると、その外見上、大きな違いがあります。一つは、艦尾にある舵板です。在来型の潜水艦では、舵板が十字型になっており、縦になっている縦舵(じゅうだ)は水上艦と同じように艦の左右方向の姿勢をコントロールし、水平に取り付けられている横舵(おうだ)は上下方向の艦の姿勢をコントロールするものです。

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(おやしお型潜水艦)

 

 「そうりゅう」型ではこの舵板が十字ではなく、 X型になっています。こうすることにより、どの方向へのコントロールでも、各舵板が作り出す抵抗の合力を常に利用できるため、操舵効率が向上すると同時に、いずれかの舵板が損傷を受けた場合でも、他の舵板が代替できるため、抗堪性、冗長性に優れていると言えます。

 下の写真をご覧になれば、両者の違いが一目瞭然ですよね。もっともこれはプラモデルの写真です。舵より、奇妙な形状のスクリューの方に目が行くかもしれませんね。

 実物のスクリューの写真はありません、防衛秘密に指定されている筈だと思います。「筈」と言うのは、何が防衛秘密に指定されているか、と言うこと自体が秘密なので、関係者以外にはわからないからです。

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 姿を晒して戦う水上艦艇と異なり、所在そのものを秘匿する必要のある潜水艦では、あらゆる面で「静粛性」が追求されます。スキュード・プロペラと呼ばれるスクリューの特異な形状も、静粛性を追求した究極の姿になっているわけです。ただ、これを作るのは容易なことではありません。精密な切削加工ができる旋盤と、この形状を削り出すための複雑なプログラムが必要となります。

 冷戦真っ只中の1980年代に、東芝機械が、このスクリューの製造に使用可能な工作機械とソフトウェアを、ソ連(当時)に売却したことで、ココム(対共産圏輸出統制委員会)規定違反に問われ、米国からの大バッシングを受けた事件がありました。

 そんな代物ですから、上の写真で装備されているプロペラは、プラモデルメーカーの想像の産物と言うことになります。

 まぁ実際には、機械切削が行われた後、高い研削技術をもつ職人さんたちが時間をかけて磨き上げていくので、工作機械が渡っただけで「究極の」プロペラができると言う訳でもないようです。手間暇のかかるこのプロペラ、1つ7〜8千万円もするんだそうです。国防には金がかかりますね(╹◡╹)

 上の写真からわかることがもう一つあります。左側の「そうりゅう」型は、艦体が鱗状になっていますよね、これは吸音タイルが貼られているからです。海の中で、相手を探す主たる方法は「音」です。水上艦艇に装備された探信儀(ソナー)や、航空機が投下するソノブイは、パッシブモード(聴音)では、潜水艦自らが発生する各種の雑音を黙って聞いて敵潜水艦の概略の位置を把握しますが、攻撃前のアクティブモードでは、ソナーから探信音を打ち、潜水艦の艦体からの反射音で、その位置を局限します。この時の反射音を低減させる目的で艦体を覆っているのが吸音タイルと言うわけです。つまり、音に対するステルス性の向上が図られているのです。

 両型の外見上の大きな違いがもう一つあります。セイル形状です。セイルとは、船の帆のことですが、潜水艦の場合には、艦体の上に乗っかっているタワーのような部分を指します。潜水艦の艦橋です。水上航行中はここに艦長あるいは操艦を委任された哨戒長が立って艦をコントロールします。もちろん吹きっ晒しですから、過酷です。

 セイルの中程に左右に突き出た翼のようなものがありますが、これが潜舵(せんだ)と呼ばれるものです。先ほどの横舵とこの潜舵を巧みに操ることにより、潜水艦はその水中姿勢をコントロールしています。

 在来型である「おやしお型」(写真右)のセイルは、その前面(左が前です)が、艦体からほぼ直角に切り立っていますが、「そうりゅう型」(写真左)では、その前面(右が前です)は、フェアリングにより艦体から滑らかな曲線を描いています。

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 これも、水中航行時の水切り雑音の低減を図るのが目的です。

 話は逸れますが、写真左のそうりゅう型のセイル上に翻っている旗は、日の丸ではありません。「隊司令旗(甲)」と呼ばれ、この艦に「潜水隊司令」が座乗していることを示しています。写真の潜水艦「ずいりゅう」は、横須賀にある第2潜水隊群・第4潜水隊所属ですので、第4潜水隊司令が乗っているということがわかります。

 隊司令旗(甲)は、1等海佐が補職される隊司令の場合、また、隊司令旗(乙)は2等海佐が補職される隊司令の場合に使用されます。

 写真左が隊司令旗(甲)、写真右が隊司令旗(乙)です。

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 指揮官旗を掲揚するのは、隊司令だけではありません。艦長の場合は、「長旗」というものを、指揮官旗として常にメインマストに掲げています。つまり、この艦(艇)には、幹部自衛官が指揮官として配属されているということを示しています。

 海上自衛隊では、俗に、艦艇長になることを「長旗を揚(あ)げる」と言うことがあります。若手の艦艇幹部の間では、同期の中で誰が最初に「長旗を揚げる」のかが話題になったりします。掃海艇やミサイル艇などの場合は、1等海尉(海軍大尉)や3等海佐(海軍少佐)で艇長になりますので、同期の中で最初に「長旗を揚げる」可能性が高くなります。

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(長旗)

 

 艦長は、常に艦上にあることを前提としていますので、艦長が艦を離れるときに「艦長不在旗」というものをメインマストに掲揚し、艦長が帰艦すると、素早く「艦長不在旗」が降下されます。

 下の写真がその「艦長不在旗」です。当然この艦内には、現在艦長は「不在」です。

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 ところでこの「艦長不在旗」ですが、国際信号機の「第3代表旗」を使用しています。代表旗とは、旗りゅう信号を行う際、同じ文字を重複使用して、もう同じ旗がないという場合に、すでに使用した旗の代わりを務める旗です。第3代表旗は、3文字めの代わりということです。

 海上自衛隊の艦艇基地に行くと、各艦艇のメインマストに色々な旗が上がったり降りたりしていますし、それらが済々と行われることが、艦の威容の一部と考えられていますので、キビキビした旗の上げ下ろしも、見学の際の見所だと思います。

 また、脱線してしまいました(≧∀≦)

 「おうりゅう」の話でしたね。

 海上自衛隊には原子力潜水艦はありませんので、「おやしお」型も「そうりゅう」型も、ディーゼルエンジンで発電機を回して鉛蓄電池に充電、そしてこの鉛蓄電池の電力でスクリューを回転させて水中を機動しています。

 もちろん、外気のない海中でディーゼルエンジンを動かすことはできませんので、浮上するかシュノーケル深度で吸気ダクトを水上に露出し、外気を取り込みながらエンジンを駆動することになります。

 しかし、作戦海域でシュノーケリングを行うことは、敵に発見される危険があることから、潜水艦にとって、定期的な充電は命懸けということになります。しかも、鉛蓄電池は充電に時間がかかり、特に充電が進めば進むほど充電に要する時間が長くなるという問題を抱えています。ですので、艦の安全を考えれば、常にフル充電できない状態で作戦行動に従事せざるを得ないということになります。

 そこで、外気に頼らない外燃機関のAIPを導入したのが「そうりゅう」型なのです。

 ただ、AIPエンジンには、必要な時に大出力を出せなかったり、高速航行には対応できないなどの問題点もありました。

 今回進水した11番艦の「おうりゅう」は、それらの問題点を克服するため、AIPエンジンも鉛蓄電池も廃止して、そのスペースに、潜水艦用としては世界で初めてリチウムイオン蓄電池を搭載することになりました。「そうりゅう」型ではありますが、ある意味新型潜水艦と言っても良いのではないかと思います。

 リチウム蓄電池は、短時間にフル充電することが可能であるため、より効率のよい、かつ、より安全な作戦行動が可能になることが期待されます。

 

 そのような画期的な潜水艦「おうりゅう」の命名進水式に、三宅由佳莉さんの独唱による国歌「君が代」が流れたのは意義深いことではないかと思います。

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 産経と日経がそれぞれ動画をあげているのですが、風が強かったためか大変音質が悪く、三宅由佳莉さんの歌唱にフォーカスした動画を編集するのが躊躇われました。

 これまでの実績からみて、連休明けにも海上自衛隊の公式チャンネルに画質・音質ともに優れた動画がアップされるのではないかと予想していたところ、未だ公式にはアップされていない海自公式ビデオと思われる内容を含む動画がアップされました。不思議なことにわずか1日でその動画は消えてしまいましたが、私はたまたまそれをダビングしていたので、そのビデオを使った動画を編集することにしました。ただ、音質・画質の良い海自ビデオには、国歌の前1/3くらいまでしか収録されていません。

 そこで、海自ビデオの国歌独唱部分に産経ビデオを繋ぐことにして、産経ビデオの音声を過去の命名進水式での音源に入れ替える作業に取りかかりました。これまでも、命名進水式の動画を編集する際、カットされた国歌の部分を、他の式典での音源で補うことは何度も行ってきましたし、そのような編集をしても、三宅由佳莉さんの国歌は、違和感なく繋がりましたので、「さすがだな」と関心もしてきました。

 ところが今回、これまで同様、海自ビデオの国歌に他の音源(個人的に、最も完成度の高い君が代だと思っている、潜水艦「しょうりゅう」の命名進水式での音源)を繋ごうとしたところ、何と、音程が異なるのです。音楽的な説明は私にはできませんが、今回の君が代は、従来よりも少し音程が高くなっているようです。

 止むを得ず、今回の君が代全部を「しょうりゅう」音源に置き換えて編集し、昨日アップしました。ご覧になってください。

www.youtube.com

 歌唱全体を別音源に入れ替えたのですから、この動画はフェイクには違いありませんが、式典における三宅由佳莉さんの独唱の様子を、より完成度の高い条件で記録するということに重きを置きましたので、ご容赦ください。

 さて、問題は、今回の君が代の音程がなぜ従来と異なるのかという点です。

 何のエビデンスもないことながら、私はこう考えました。

 何らかのイベントにおける国歌独唱のオファーが、三宅由佳莉さんにきているのではないか。そして、イベント主催者から指定された楽譜は、従来東京音楽隊が演奏してきた楽譜とは異なるのではないか。そのイベントは非常に重要なものであるが故に、三宅由佳莉さんは、新たな楽譜による君が代の独唱に取り組んでおり、部内の式典においてもそれを実践することにしたのではないか。

 先日、離任間際の小野寺前防衛大臣東京音楽隊を視察され、また、第58回定例演奏会をお忍びで鑑賞されたこととも関連があるのではないか。

 私が何を言いたいのかはお分かりだと思います。

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 もちろん、私の妄想に過ぎませんが、それにしても興味深い事実が続いているとは思いませんか?

 

 画期的な能力向上が図られた潜水艦「おうりゅう」の命名進水式における、三宅由佳莉さんの国歌独唱が、やはり画期的な大イベントへの嚆矢であって欲しいと願うのは、私だけではないでしょう。

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 2018年11月7日に、「おうりゅう」命名進水式の公式動画が海上自衛隊からアップされました。三宅由佳莉さんがこの日歌われた「本物の」君が代がフルで聴けますので、是非ご覧になってください。音程が少し高いのがわかると思います。

www.youtube.com