あれこれdiary

海自OBによる偏見御免徒然あれこれdiary

自衛艦旗とは何ぞや(旭日旗に係る議論に寄せて)

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 今月10日から、韓国の済州(チェジュ)島で行われる国際観艦式を前に、韓国政府が日本に対し、護衛艦自衛艦旗を掲揚しないように要請したとの報道が流れており、それに対する批判や反発のコメントなどもたくさん見かけます。

 この問題について、小野寺前防衛大臣や村川豊海上幕僚長が、記者会見で、自衛艦旗を掲げるのは国内法・国際法に則ったものとして、韓国側の要請には応じない考えを示したとも報道されています。

 私はものすごい違和感を感じます。

 そもそも、韓国政府の公表ぶりは、「各国の国旗のみを掲げるのが原則」「旭日旗への韓国国民の憂慮を軽減させる努力をしている」というもの、もちろん本音は「掲げないでくれたら、国内も収まるし、いいんだけどなぁ」ということでしょうが、「軍艦旗を掲揚しないでくれ」などという無礼が通るわけもないことは十分認識されているでしょうし、多分に国内むけのアナウンスでしょう。そんな非常識なことを、近代国家の政府が正面切って要請するはずがないと私は信じています。したがって、日本国政府として、なんらコメントする必要もない問題であり、大臣も海幕長も、記者レクのアイテムに、このような内容を入れているはずがありません。つまり、面白半分に韓国政府の真意を「忖度」した日本のマスコミが質問するから答えているだけのことでしょう。

 日本としては「そっちの問題だし、よろしくな」と言って放っておけば良いものを、わざわざ、「韓国政府が要請した」と報道することで、非常識の汚名を着せて韓国政府を愚弄するとともに、日韓両国民の間に、故意に溝ができるようにミスリードしているわけです。ワンパターンの構図に持っていければ、楽でしょうがないんでしょうが、この手抜き報道、ひどいもんですね。

 そういう意味では、日本のマスコミは自衛艦旗が一体どういう位置付けにあるのかを韓国政府よりも知らないと言うことなのかもしれません。

【10月6日追記】

 10月5日、海上自衛隊は、チェジュ島での国際観艦式への参加を取りやめました。この件に関してはまた別の記事で論考します。

 

 そんなこともあり、また、チェジュ島での国際観艦式に先立ち、この週末に自衛隊観閲式の予行(リハーサル)が行われることから、前回の観閲式における「旗の敬礼」についてレビューしつつ、自衛艦旗旭日旗)の位置付けについて、ちょっと見てみたいと思います。

 ところで、自衛隊には「旭日旗」が2種類あるのをご存知でしょうか。

 一つは、今のべてきた「自衛艦旗」ですが、もう一つは、陸上自衛隊の隊旗である「自衛隊旗」です。これが「陸上自衛隊旗」でないところに、最後の砦たる陸上自衛隊の矜持を感じます。

retcapt1501.hatenablog.com

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 観閲式では、陸上自衛隊の徒歩更新部隊の指揮官車の後方に「自衛隊旗」を乗せた車両が続いて行進します。

 さて、観閲式では、様々な敬礼が行われますが、徒歩行進(つまりパレード)の際には、各部隊は、それぞれ部隊のシンボルである旗を伴って行進を行います。

 そして、観閲官(内閣総理大臣)が立つ観閲台の手前で、部隊が「頭右(かしらみぎ)」の敬礼をする際に、部隊の旗を前に倒すことで、「旗の敬礼」も行います。

 つまりこんな感じです。観閲部隊指揮官である第一師団長です。

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f:id:RetCapt1501:20181003233151j:plain「かしら〜」

f:id:RetCapt1501:20181003233214j:plain「みぎ!」

 

 防衛大学校学生隊の場合は、全体の指揮官である「学生隊学生長」の後ろに4名の幕僚が従い、さらにその後ろに校旗と旗衛隊が続きます。

 学生隊学生長が、儀礼刀(サーベル)を眼前に掲げ「かし〜ら〜」と予令。

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「みぎ!」の号令で、学生長はサーベルを右斜め下に差し出し、後方の幕僚は挙手の敬礼を、そしてさらに後方の校旗は前に倒され、旗の敬礼を行なっています。

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 このように、部隊の旗は、基本的に指揮官の後ろに従い、観閲台前で観閲官に「旗の敬礼」を行うのです。

 さて、部隊にそれぞれ旗があるのと同じように、観閲台の上に並ぶ最高級幹部にもそれぞれを表象する旗があります。先日、小野寺防衛大臣(当時)の東京音楽隊視察の際に「防衛大臣旗」について触れましたが、自衛隊最高指揮官である内閣総理大臣にも旗があります。

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 この7つの旗が、観閲式の際、観閲台の前に並びます。下の写真をご覧ください。

右から、内閣総理大臣旗、防衛大臣旗、防衛副大臣旗、統合幕僚長旗、陸上幕僚長旗、海上幕僚長旗、航空幕僚長旗となります。

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 各部隊が「頭右(かしらみぎ)」の敬礼を行うたびに、観閲台の上の観閲官は答礼しますが、7本の旗は動きません。

 陸上自衛隊の徒歩部隊が、指揮官車の後ろに旭日旗自衛隊旗)を従えて行進してきます。間もなく「頭右」の敬礼です。旭日旗に注目してください。

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 指揮官が敬礼するのに合わせ、旭日旗も前に倒され、「旗の敬礼」をしていますが、やはり7本の旗は動きません。

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 ただ、例外があります。下の写真では部隊用国旗が旗衛隊に守られながら行進してきています。国旗は、何しろ国の象徴ですから、観閲官に対して敬礼することはありません。そのまま観閲台の前を通過して行きます。

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 この時、観閲台の前に並ぶ7本の旗が、国旗に対し、「旗の敬礼」を行います。

 下の写真で、7本の旗が前に倒され、国旗に敬礼しているのがわかりますね。

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 さて、実は、7本の旗が敬礼する場面がもう一つあるのです。

 もう、お分かりですよね。そうです、7本の旗は、自衛艦旗に対しても敬礼します。

 自衛艦旗は、他の隊旗のように指揮官の後ろに従うのではなく、国旗と全く同じように、旗衛隊に守られながら単独で行進します。そして、観閲官に対する敬礼はせず、そのまま通り過ぎます。

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 自衛艦旗が観閲台に近づくと、7本の旗が上に掲げられ、

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そして、前に倒されて、自衛艦旗に対する敬礼が行われます。

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 観閲行進の際の「旗の敬礼」の作法と、国旗、自衛艦旗に対する7本の旗の敬礼についてご理解いただけましたでしょうか。

 では、その辺にフォーカスして短い動画を作ってみましたので、おさらいを兼ねて、動きのある旗の敬礼をお楽しみください。自衛艦旗に対しては、タクトを振っている東京音楽隊の樋口好雄隊長をはじめ、音楽隊の右翼で待機中の陸・空音楽隊長も挙手の敬礼を行っています。

www.youtube.com

 自衛艦旗は、国旗に準じて扱うこととされています。

 つまり、国旗なのです。

 ですから、冒頭の話ではありませんが、掲揚するかどうか、などと言う判断の対象になり得ないものなのです。そこをきちんと踏まえていないから、軽薄な議論や質問が出てくるのでしょう。

 自衛艦旗とは何ぞや。しっかりと認識したいものです。

 そして、来たる自衛隊観閲式を観に行かれる方は、行進部隊の「旗の敬礼」にもぜひ注目していただきたいと思います。