あれこれdiary

海自OBによる偏見御免徒然あれこれdiary

自衛隊と国民の絆

 この記事は、昨夜、kaiten91さんから頂いたコメントに触発されて、「是非書きたい」と思ったものです。kaiten91さん、良い刺激をありがとうございました。

 私が学んだ防衛大学校では、毎年3月に挙行される卒業式に、自衛隊の最高指揮官である内閣総理大臣の臨席を得、卒業生はその訓示を賜る栄誉に浴します。

 自衛隊の草創期に挙行された第1期生の卒業式で訓示されたのは、当時の宰相、吉田茂氏でした。

 このブログを始めて間もない頃に書いた記事でも取り上げましたので、読んでいただけると幸いです。

retcapt1501.hatenablog.com

 吉田茂首相は、訓示の中で次のように述べられました。

「 君達は自衛隊在職中、決して国民から感謝されたり、歓迎されることなく自衛隊を終わるかもしれない。 きっと非難とか誹謗ばかりの一生かもしれない、御苦労だと思う。しかし、自衛隊が国民から歓迎され、ちやほやされる事態とは、外国から攻撃されて国家存亡の時とか、災害派遣の時とか、国民が困窮し国家が混乱に直面している時だけなのだ。言葉を換えれば、君達が日陰者である時のほうが、国民や日本は幸せなのだ。 どうか、耐えてもらいたい。

 この訓示に対しては、賛否様々なご意見がありますが、私の考えでは、額面どおりの意味の他に、どんな逆境下にあっても、自衛官が自らの存在を誇りに思える仕掛けを作ってくれた、愛情溢れる訓示だと思います。

 それはさておき、自衛隊の置かれた立場は、まさにこの訓示の通りでありましたし、あり続けました。

 特に、国民世論を形成する力を持ったマスコミの報道が、自衛隊と国民の間に大きな楔を打ち込み続けた影響は計り知れません。私はマスコミ界に身を置いたことがありませんので、実態はわかりませんが、長年見てきた報道ぶりから推察するに、おそらく彼らは、正しいことをしているとの自負心を持っていたのだと思います。つまり、そもそもこの世に存在すべきでない「悪の根源」である自衛隊を叩けるだけ叩き、この日本から「駆除」するのは「正義」だとの信念に基づく報道だったのでしょう。ゴキブリ並の扱いです。

 そんな潮目に明らかな変化が現れたのが、先の東日本大震災だと、多くの方がl指摘されています。当初は自衛隊の活動にも冷ややかな報道だったものが、次第に変化していったというのです。

 確かに、当時私も大きな「違和感」を感じました。自衛隊は、東日本大震災で特別なことをした訳ではありません、「それまでと同じように」真摯に現実に向き合い、被災者に接しただけなのです。それなのに、「なぜ、今回だけ、いつもの批判報道ではなく、このように評価されるのか」に違和感を感じたのです。

 この疑問に対し、ある先輩が、「今回は、規模が大きくて国家の屋台骨を揺るがすような事態だったから、マスコミ各社も、いつもの社会部じゃなくて政治部を投入したらしいよ。だからバイアスがかからない報道になったんじゃないかな」と教ええてくれました。同じものを見ても、送り手が変わると180度違うものになるということがよくわかりました。

 でも、最近、そのほかにも原因があったのではないかと思い始めています。このブログを書くためにネット上を彷徨っていると気づくのは、夥しい数のSNSの記事です。調べてみると、TwitterFacebookが我が国で本格的に普及し始めたのは、東日本大震災の前年、2010年なのです。

 つまり、マスコミがいくらバイアスのかかった報道をしても、現地で自分が体験したことをつぶやく無数の「真実の声」の前には無力であることが明らかになったのが、東日本大震災なのではないかと思うのです。

 そして、日陰者であることに「誇り」を見出すことに慣れっこになっていた自衛官と、真実を共有した国民の間に、自発的な絆が生まれたのではないでしょうか。

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 マスコミが、そのような絆の形成を阻もうとしてきたおかげで、彼らが介在しない純粋で草の根的な強い紐帯が、今大きく育っているのを感じるのです。

 冒頭で紹介したkaiten91さんのコメントは、今次の豪雨災害に際し災害派遣が行われている現場で、海上自衛隊の音楽隊が奏でる「涙そうそう」の演奏を伝える動画を紹介してくださったものです。たった二人のアンサンブルですが、心に沁みる演奏です。

 でも、私がより感動したのは、この動画に寄せられた多くのコメントです。

 間違いなく、自衛隊と国民の間に健全な絆が生まれ、育っているのを感じるからです。海上自衛隊のOBとして、これほど嬉しいことはありません。そして、その絆づくりに大きく貢献しているのが音楽隊なのだと思います。

 東日本大震災の被災者を慰め、勇気づけるために書かれた「祈り」、そしてそれをドラマチックに歌い上げた三宅由佳莉さん。そのどちらもが、国民の広い支持を得たのは、そのような健全な絆が萌していたからでしょうし、音楽隊の演奏によって、その絆が日々、より強化されているのを感じます。

 何もわからず、「音楽隊など税金の無駄遣い」などと仰る方がおられますが、「自衛隊と国民の絆」という、目に見えない我が国の防衛基盤の根幹を支えているのが彼らです。

 どんな高価な兵器にも負けない、自衛隊の、いや我が国の「戦力」なのです。