あれこれdiary

海自OBによる偏見御免徒然あれこれdiary

三宅由佳莉さんの、「残酷な天使のテーゼ」(1/2)

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(2016年6月1日、栄オアシス21での「テーゼ」、ゆきかぜさんの好きなシーンです)

 

 海上自衛隊東京音楽隊の歌手である三宅由佳莉さんは、声楽家であり、正統派のソプラノ歌手です。ですから、東京音楽隊の演奏会などで、クラシックやオペラの楽曲を唄われることも珍しくありません。

 でも、冒頭申し上げたとおり、三宅由佳莉さんは「歌手」ではなく「東京音楽隊の歌手」なのです。東京音楽隊をはじめ、自衛隊の音楽隊は、任務を帯びた演奏家集団ですから、活動の目的は演奏技術や芸術性を極めることではありません。任務を達成することです。任務を達成する手段が音楽なので、当然演奏技術や芸術性を磨きこれを極めようとするのは当然ですが、最終目標が違うということです。

 これまで何度かご紹介してきましたが、音楽隊の任務は、①隊員の士気高揚のための演奏、②儀式・式典における演奏、そして③広報のための演奏に分けられます。

 そして、私たちが東京音楽隊の演奏を楽しむことができるのは、③という任務があるからです。

 これらは「任務」です。

 何のための「任務」か。

 自衛隊の部隊に与えられる任務は、部隊特性に応じて種々様々ですが、全ての任務は最終的に「国防のため」という一つの目的に集約される体系だった「目標系列」にしたがって付与されています。

 つまり、「上位部隊の任務達成に寄与するため」という目的を持った任務なのです。このように、目的を持った任務を「使命」と言います。

 「使命の自覚」とは、自分の任務を何のために遂行するのか、これを明確に認識しながら職務に就くということであり、最も大切なことであるため「自衛官の心構え」の筆頭に挙げられています。これがあやふやなままでは、いかに高性能な兵器や優秀な人材を揃えたとしても、最終目的である「国防」の土台が揺らぎ兼ねないからです。

 では、音楽隊の使命とは何か。

 ①と②は自衛隊の部隊の精強性を維持するという目的に寄与するための任務です。そして③は、我が国の防衛基盤を拡充するという目的に寄与するための任務となります。

防衛基盤には様々な面がありますが、音楽隊による広報演奏は、自衛隊に対する国民の理解と支持を広げ、国防に対する認識を深めてもらうことを主たる狙いとしています。

 したがって、全国各地を訪ねて演奏会を開いたり、機会があればメディアへの出演も当然行いますので、外面的には芸能人と同じような活動に見える場面もあるかもしれません。でも、特定のファンを掴み、収益をあげるという経済活動を行う芸能人と根本的に異なるのは、全国民を対象として最大多数の理解と支持を獲得するという広報宣伝活動を展開しているという点です。

 ですから、正統派のソプラノ歌手だとしても、「使命」を自覚した三宅由佳莉さんは、童謡や演歌、ポップスやアニメソングなど、聴衆のあらゆる求めに応えるべく、日々挑戦と修練を続けておられるわけです。

 そのような「使命の自覚」に基づく演奏活動であることを理解しないと、芸能人の真似事をしているというような、大きな誤解に陥るわけです。

 つい先ほども、フジテレビの新春番組に東京音楽隊が出演し、三宅由佳莉さんが「アナ雪」を披露した際の動画に対し、次のようなコメントが届きました。

歌を披露する女子自衛官は今やタレント扱いだね。防衛省所属の自衛隊はいつからタレント養成所になったのかねえ。劇団〇〇みたいに採用オーディションでも始めるのかな?

www.youtube.com

 他方で、三宅由佳莉さんについては「ジャンルにとらわれない楽曲を手がけ、幅広い層に支持が広がっている」と称賛されることも多いですよね。

 これらはいずれも、上に述べたような根本的な違いに対する理解が、未だなかなか得られていないことの証左であると思います。

 なぜなら、三宅さんが入隊する前から、各音楽隊はあらゆるジャンルの楽曲を手がけて、国民の間に理解と支持を広げる努力を連綿と続けてきたのですから。

 三宅由佳莉さんが登場して、信じられないくらい注目度が上がったため、音楽隊のなんたるかをご存知ない方が、支持層にも批判層にも大幅に増え、それぞれの立場で驚いたり批判したりしているということなのでしょう。

 さて、前置きが長くなりました。

(え〜、まだ前置きかよ)

 そうなんです、だってタイトルを見てください。

 ちょっとだけ前置きを書こうとしたら、ついつい筆が滑りに滑ってこんなに長くなってしまいました。私の悪いくせです。

 という訳で、今タイトルに「(1/2)」をつけました。

 本論は「(2/2)」として、明朝投稿します。

retcapt1501.hatenablog.com