あれこれdiary

海自OBによる偏見御免徒然あれこれdiary

率先垂範

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  昨日の、「煙草盆出せ」という記事を書きながら思い出したことがありましたので、引き続きタバコの話です。

 記事で、以前は艦内で喫煙が許されていたこと書きましたが、自衛隊だけでなく、日本の社会全体が喫煙者に対して非常に寛容で、至る所でタバコが吸えるのが普通でした。

 私が高校生の頃には、珍しいとは言え、満員の路線バスの中でさえ喫煙する人が時々いたのを覚えています。尤も、バスの車内には「禁煙」と表示してあるくせに、各座席にはちゃんと灰皿が備えてあったのですから、中途半端な時代でした。

 バスの中でさえそんな有様ですから、路上を歩行しながらタバコを吸う人などゴロゴロいましたし、職場のデスクの上には吸い殻が山盛りになった灰皿が置いてあるのがごく自然な風景でした。

 国民の健康寿命を伸ばす一環として、分煙・禁煙の措置が強力に推し進められてきた結果が現在の日本社会です。こんな世の中になるなんて、以前は想像もできないことでした。素晴らしいことだと思います。

 ここまで分煙・禁煙が進んできますと、突然「敷地内全面禁煙」の措置が取られてもスムーズに移行できますが、喫煙天国だった時代に「全面禁煙」を断行するのは、抵抗も大きく、大きな課題でした。

 海上自衛隊でも、艦艇のみならず、施設内や航空機内も逐次禁煙・分煙措置が取られてきましたが、喫煙率が高かったせいもあり、そう簡単ではなかったのです。

 私の敬愛する4期先輩のNさんは、潜水艦乗りでした。仕事もよくやりますが、大酒飲みのチェーンスモーカーでした。

 そのN先輩が潜水艦隊司令部の作戦主任幕僚に就任されてからしばらくして、一緒に酒を飲む機会があったのですが、その際こんな話をしてくれました。

 潜水艦隊もいよいよ全面禁煙になった。これは時代の流れだからいつかはやらねばならない。だから、俺がやることにした。俺がチェーンスモーカーだということはドンガメ(潜水艦乗りのことです)の連中はみんな知っている。その俺が旗を振るからみんな「仕方ないか」と納得する。そうじゃなきゃ、こんな革命できやしない。

 私は感心しました。率先垂範とはよく唱えられるお題目ですが、ヤニがなければ死んじゃうんじゃないかと思うほどタバコを愛して止まなかったN先輩が、施設内・艦内禁煙の旗振りをやるとは。以前の先輩なら間違いなく「抵抗勢力」になっていたはずですが、重責を担うというのは、こういうことなのだなと思ったのでした。

 自分に与えられた地位と権限をどう使うのか。

 使命を自覚すれば自ずと答えは出てくるのだと思います。