あれこれdiary

海自OBによる偏見御免徒然あれこれdiary

「よろしい!」

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 海上自衛隊用語解説の続きです。

 今回は、どこが用語なの?という感じですよね? でもまあ、読んでみて下さい。

 

 自衛隊では、陸・海・空を問わず、隊員が集合した場合には人員報告を行います。

 防衛大学校での人員報告要領は、陸・空方式です。つまり、小隊なり中隊なりの指揮官が、上級指揮官に対し

 「〇〇中隊、総員○名、事故○名、現在員○名!。事故の内訳・・・!」と非常に細かく報告します。

 ところが、海上自衛隊護衛艦に実習で乗艦した際に驚いたのは、朝の課業整列で各分隊が集合した際、各分隊は「1分隊」「2分隊」・・・と分隊名しか報告しないことでした。こんな報告で人員をどうやって把握するのか、気になったので「分隊名だけの報告でいいんですか?」と聞くと、「いや、本当は『〇〇分隊よろしい!』と言うところだが、ちょっと省略している」とのこと。

 は?いやいや、それでも人員の掌握はできないだろう。

 結局、細かい人員掌握は分隊長が責任をもってやる。分隊としては、艦の全力発揮に必要な「機能」を提供するのが使命、ということだと最終的に理解しました。

 陸上自衛隊は、個々の隊員がまさに戦力ですから、一人一人の状態をきちんと掌握する必要がありますし、一つの戦闘が終わるたびに、兵力の損耗をきちんと把握しなければならないので、人員報告要領が精緻にできているのだと思います。

 この違いが面白く現れるのが、海上自衛官陸上自衛隊の学校に入校した時です。

 なぜ、海上自衛官陸上自衛隊の学校に?と思われるかもしれませんが、少人数の職種の場合、わざわざ教育課程を作るよりも、陸上自衛隊の学校に教育を委託した方が効率的です。ですから、陸上自衛隊に余力がある範囲で海自・空自からの委託学生を受け入れているというわけです。

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 さて、そんな陸上自衛隊の学校に海上自衛官が入校すると、郷に入っては郷に従えの教えのとおり、なるべく陸上自衛隊式に合わせるのですが、長年身についたものはそう簡単には変えられないものです。

 特に、授業が始まる際の教官への敬礼と申告では、陸上自衛官が教務当直の時には、教官が入室すると「気を付け!」「教官に対し敬礼!」「直れ!」、「〇〇過程、○○名集合終わり!」そして「着席!」となります。

 ところが、海上自衛隊では、そもそも幹部学生の場合、「幹部に号令はかけない」ことになっていますので、教官が入室すると、各自が自発的に起立し、教官が教壇に立つと、阿吽の呼吸で皆一斉に無言で敬礼し、教官の答礼を受けて、無言で着席するのです。流石に、これは陸自の方々には理解されませんので、海上自衛官も号令をかけます。でも、やり方が違うんです。「気を付け!」「敬礼!」「直れ!」までは一緒ですが、次は「よろしい!」と報告、そして「着け!」となります。

 教務当直学生から「よろしい!」と言われた教官は面食らいます。「よろしい」は通常上級者から下級者に何かを許可する場合の物言いだからです。喧嘩を売ってるのかと思われても仕方ないですよね。でも、これは習い性なので口をついて出てしまいます。

 それから「着席」ではなく「着け」というのも、海自独自の言い回しです。

 でも、完全に陸自方式でやってしまうと、海自のことを理解してもらう機会を失うことにもなりますので、笑い話で終わる程度の摩擦があった方がいいなと、私は思います。