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海自OBによる偏見御免徒然あれこれdiary

海軍とチャレンジ

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 昨年の12月に、「海上自衛隊東京音楽隊のチャレンジ」「三宅由佳莉さんのチャレンジ」という記事を書きました。その中で、海軍はチャレンジングフォースであることにも触れました。今回はそこがテーマになります。

retcapt1501.hatenablog.com

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 世界の四大宗教は何か

 それは、キリスト教イスラム教、仏教、そして海軍

 

 このようなアネクドートが存在するほど、海軍というものは、自国の他軍種(陸軍や空軍)とよりも、他国の海軍との方が意思の疎通もスムーズであるという面は確かにあるかもしれません。洋上という、特殊な環境下での苦労というものは、現にそれを体験した者でなければ理解できません。だからこそ、自国の他軍種よりも、他国の海軍との方が簡単に意思疎通や共感を得ることができるのでしょう。

 さて、各国海軍に共通するものはたくさんあるのですが、「チャレンジ」というものは、とても重要な要素であろうと思います。

 なぜ、海軍がチャレンジを?

 それは、国際慣習法と密接な関係があるのです。

 我が国では、どういうわけか、国際社会というものが国内社会よりも上等なものと位置づけられており、国連に妙な期待を抱く傾向が見られますが、そんなものは幻想にすぎません。少なくとも現時点においては。

 そもそも、国際社会というものは、国内社会のように法体系や司法・行政体系が整備されているわけでもなく、大変荒々しいところなのです。国家間に争いが起きたとしても、それを調停したり、取り締まったりする絶対的権威は存在しません。

 まして、国家の庇護から離れた個人など生き延びる余地はないと思った方が良いでしょう。時々「私は世界市民です」などと、したり顔でのたまう方を拝見しますが、国家の庇護にどっぷりと浸かっているからこそ安心して唱えられる「国家不要論」を、そこまで得意顔で語れる勇気には、いつも感服させられます。

 国際法というものは、それを明文で制定し得る権威(例えば世界政府のようなもの)が存在しないことから、国家間に発生する利害の衝突や、それを解決する努力の積み重ねにより形成された、当事国同士の様々な慣習が、長い年月をかけて一般化するという形で、緩やかに形成されてきた経緯があります(国際慣習法)。

 このような性質を持つ国際慣習法ですから、その変更も、それが一般慣行として根付き、各国から公知されるまでには、通常長い年月を要します。そして、変更に異を唱える国は、この間に、それが国際慣行として定着しないように努力する必要が出てきます。

 1979年から、米海軍が行なっている「航行の自由作戦」は、正にこの努力なのです。1981年と1989年にリビアのシドラ湾で起きた「シドラ湾事件」はその一環ですが、ここでは省略します。

 南シナ海での中国の主張は、これまでに確立している国際慣習法からみれば、到底受け入れ難いものです。でも、中国に遠慮して本来公海である海域を避けて航行したり、入域前に中国に通告するようなことを繰り返していると、それが国際慣行となり、中国の主張が新たな国際慣習法として成立してしまいます。

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 米海軍は、南シナ海においても「航行の自由作戦」を行っています。中国が求める事前通告なしに、海軍艦艇を公海上に展開することを繰り返しているのです。これが海軍によるチャレンジというものです。

 具体例を示す記事を下に紹介します。興味のある方は訪ねてみてください。

中国軍高官、日本人差別発言 「米太平洋軍司令官は日系人」 | NEXT MEDIA "Japan In-depth"[ジャパン・インデプス]

 我が海上自衛隊は、そのような作戦名はもちろんつけていませんが、やはり国際慣習法に則り、公海自由の原則を貫くべく行動しているに違いないと思います。

 よく勘違いされる方がおられて、「軍艦なんて使わずに話し合いで解決したらいいじゃないですか」と仰います。でも、国際慣習法の成立過程を考えれば、このようなチャレンジの応酬こそが、ルールに則った、国際社会での「話し合い」なのです。

 国際社会には国際社会のルールがあるのに、国内のしかも私人間のルールを当てはめようとするから問題の核心がわからなくなるのだと想います。

  中国海軍が、津軽海峡大隅海峡を通峡するのも、やはりチャレンジです。実績を積むということが、国際社会では大変大きな意味を持ちます。言葉ではないんです。お互いにそのことが分かっていないと、手続きであるはずのチャレンジが、それこそ危険なゲームになってしまいます。