あれこれdiary

海自OBによる偏見御免徒然あれこれdiary

ウイスキー🥃オンザロック

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 私はウイスキー、中でもスコッチウイスキーが好みなので、このようにロックでいただきながら記事を書くことが多いです。ウイスキーオンザロック万歳です。

 という話を書きたい訳ではありません。

 ずいぶん昔のある事件のことを書こうと思っているのですが、このタイトルを見ただけでピンときた方は、かなりの事情通だと思います。

 

 ところで、電話でのやり取りの際、固有名詞がきちんと伝わらないことってありますよね。そんな時、通じていない文字を伝えるため「はひふへほ、の、ほ」とか「たちつてと、の、た」とか言って伝えるのではないでしょうか。あるいは、「保険のほ」とか「タバコのた」などという伝え方もあります。

 後者の伝え方には、実は標準があります。いろは順に「いろはのい」「ローマのろ」「ハガキのは」「日本(にっぽん)のに」「保険のほ」「平和のへ」・・・と続きます。これは戦前から使われているのですが、一部変更されています。「平和のへ」は、もともとは「兵隊のへ」でした。なんとなく、小賢しい変更ですね。

 まあ、その話はさておき、米軍やその同盟軍の間でも、アルファベットが間違いなく伝わるように工夫された呼称法がありますので、その全てをここに列挙して見たいと思います。

A(アルファ)、 B(ブラボー)、C(チャーリー)、D(デルタ)、E(エコー)、F(フォックストロット)、G(ゴルフ)、H(ホテル)、I(インディア)、J(ジュリエット)、K(キロ)、L(リマ)、M(マイク)、N(ノベンバー)、O(オスカー)、P(パパ)、Qケベック)、R(ロメオ)、S(シエラ)、T(タンゴ)、U(ユニフォーム)、V(ビクター)、Wウイスキー)、X(エクスレイ)、Y(ヤンキー)、Z(ズールー)

 私は、これを防衛大学校の学生時代、海上要員の訓練の一環で覚えさせられました。そのころは、正直言って、なんでこんなもの覚えなきゃならないの?と思いました。ところが、これは情報の確実な伝達のためにはとても便利なんです。もちろん互いにこの知識を持っていなければ使えませんが、海上自衛隊という組織にいる限り、誰でもこのアルファベット呼称を知っていますので、必ず正確に伝わります。

 

 さて、今から30年ほど前まで、米国を中心とする自由主義陣営と、ソ連を中心とする社会主義陣営の間で、「冷戦」と呼ばれる戦争が行われていました。私の年代は、生まれた時から冷戦の真っ只中でしたから、緊張感と同時にある種の安定感が世界に遍く行き渡っていたあの時代をよく覚えています。でも、昭和天皇崩御され、元号が改まった平成元年の12月、米ソ主脳によるマルタ会談で、冷戦は終焉を迎え、その2年後、ソ連も崩壊し、ロシアやウクライナベラルーシバルト三国中央アジア諸国などに分裂してしまいましたので、平成生まれの方にとっては全くリアリティのない世界だと思います。

f:id:RetCapt1501:20180119233610j:plainマルタ会談

 

 そんな冷戦期、ソ連の情報は殆ど漏れてこないため、その内部で何が起きているのかについて、クレムリンウォッチャーと呼ばれる人たちが断片的な情報から推測するしかありませんでした。まるで、今の北朝鮮と同じような感じだったんです。

 軍事情報は、なおさらでした。ソ連が開発する兵器の正式な型式に関する情報が得られないため、西側諸国は独自の名称を付与して認識の統一を図りました。

 それがNATOコードと呼ばれるもので、潜水艦については、基本的に、先ほど紹介したアルファベットの呼称が用いられていました。例えば、「デルタ級」「オスカー級」「ロメオ級」と行った具合です。

NATOコードネームの一覧 (艦艇) - Wikipedia

 「ウイスキー級」潜水艦も当然ありました。下の写真がそれです。

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 冷戦真っ只中の1981年10月、その事件は起きました。

 ソ連海軍バルト海艦隊に所属するウィスキー級潜水艦が、スウェーデンの領海内で岩礁に乗り上げ、座礁したのです。実は単なる航法ミスが原因だったのですが、事件発覚当初は、何らかの秘密任務のためスウェーデン領海内で行動中に起きた事故と見なされました。しかし、ソ連側が敵対的意図はなかったことを証明する為に航海日誌を提出した結果、あまりにもお粗末な航法技量が世間に晒されることとなり、「酒でも飲みながら作戦行動についているんじゃないのか?」という皮肉も込め、「ウイスキーオンザロック岩礁に乗り上げたウイスキー級潜水艦)」と書き立てられたのでした。

 海軍軍人にとって、不名誉この上ないこの事件、関係者はどのように処分されたのか気になるところです。

 ちなみに、海軍艦艇が他国の領海内に侵入しても、当然には国際法違反にはなりません。軍艦の「無害通航権」については争いがあるからです。国際海峡などでは、一定の条件のもと、通過通行権が認められています。潜水艦については、浮上し、自国の国旗または軍艦旗を掲揚することが求められます。つまり、どこの誰かも名乗らず、ましてや潜ったまま通行するような非礼は許さないというわけです。

 この辺の話も、いずれ別記事で書いてみようと思います。