あれこれdiary

海自OBによる偏見御免徒然あれこれdiary

「明日の別法は1830より」

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 海上自衛隊用語解説シリーズの続きです。

 今回の記事タイトルは「みょうにちのべっぽうはひとはちさんまるより」と読んでください。

 師走も下旬を迎え、忘年会やらなんやらと、宴会、飲み会が目白押しで、夜の部が大忙しの方もいらっしゃることでしょう。

 海上自衛隊でも、この時期は忘年会が多いです。職場での忘年会もありますが、やはり苦楽を共にした同期生との忘年会が楽しいですよね。たとえば、東京音楽隊三宅由佳莉さんの場合、入隊後に共にカルチャーショックを受けた、横須賀教育隊の同期がいますし、3等海曹に昇任した後、海曹としての教育を受けた「初任海曹課程(初曹)」の同期もいますので、それぞれの東京地区の同期と忘年会を楽しんでおられるかもしれませんね。

 さて、そんな宴会のことを、海上自衛隊では「別法(べっぽう)」と呼ぶことがあります。若い隊員同士の同期会などではおそらく使われていないのではないかと思いますが、特に職場の宴会などの場合には、よく使われています。

 これも帝国海軍時代からの慣習で、通常「別法」と呼んでいますが、正しくは「士官室別法」と呼称します。もともと艦艇の士官室における隠語なので、幹部海上自衛官の間では自然に使われており、その関係で部隊の宴会の時には「別法」と呼ばれることが多いのだと思います。

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(帝国海軍軍艦の士官室)

 なぜ、艦艇士官室の宴会のことを「士官室別法」と呼ぶようになったのか。

 士官室とは、艦艇の中央に設けられた、士官(幹部)の公室のことですが、艦長以下、士官室を利用するメンバー全体のことも意味します。士官室は、艦長以下の士官が一同に会して食事をする場でもあり、会議や業務の打ち合わせなど、士官同士の情報共有が日常的に行われる、士官のためのサロンです。

 その壁には、月間・週間予定表が備えられており、様々な予定が書き込まれています。停泊中は、部外の方が入室される場合も少なくありませんので、機微にわたる事項はカーテンで隠せるようなボードに記載したり、記号や隠語で記載されたりします。

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海上自衛隊護衛艦の士官室)

 部外の来客者の目に晒される可能性のある予定表に「宴会」と書くのも如何なものか、という帝国海軍流の配慮から、士官室メンバーが、そのまま別の場所に移動して、士官室と同じように情報共有を図る、という意味で「士官室別法」と呼称するようになったわけです。

 私はこの、ちょっと人を食ったような粋がり方が嫌いじゃないです。スマートさとは何かを教えてくれています。

 自衛隊も、最近は統合運用が基本になってきましたので、陸海空の自衛官が同じ職場で勤務するのも珍しいことではありません。そのため、この「別法」という隠語が、陸空自衛官の間にも、徐々にではありますが、認知されるようになってきました。

 私は、自衛隊以外の方にも、「別法」という言葉が、単なるマメ知識としてではなく、一つのスタイルとして伝わってくれたらいいな、と思います。