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海自OBによる偏見御免徒然あれこれdiary

巡航ミサイル導入の意味

 12月8日の記者会見で、小野寺防衛大臣は、来年度予算案に長距離巡航ミサイル導入に向けた経費を計上する方針であると述べました。

 これは、自衛隊の兵器体系(我が国政府内部では装備体系と言っていますが)に革命的な変化をもたらす決断です。

 そもそも、巡航ミサイルとは何か。

 通常のミサイルは、強力なロケットエンジンにより推進し、目標に向かって高速で飛行しますが、短時間で推進力を失います。

 また、弾道ミサイルロケットエンジンにより垂直に上昇し、大気圏外から弾頭が再突入し、目標に向かって自由落下していくものです。

 これらと異なり、巡航ミサイル主翼ジェットエンジンにより、飛行機のように比較的ゆっくりと目標に向かいます。エアインテークから空気を取り入れながら、燃料を少しづつ燃焼させ、名前のとおり「巡航速力(最も燃料消費効率のよい速力)」で飛行しますので、ロケットエンジンのように、短時間で推進力を失うことがありません。

 結果、敵の防空圏のはるか外側から攻撃すること(スタンドオフ攻撃)が可能となり、その気になれば、長距離を飛行して敵地の奥深くまで侵入することさえできるのです。湾岸戦争の際、米軍が多数使用した「トマホーク」がまさにこの巡航ミサイルであり、大きな戦果を挙げました。

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 さて、巡航ミサイルは飛行機のように飛んでいくわけですから、打ち落とされれば終わりだよね、と思われるかもしれません。ところが、巡航ミサイルの飛行高度は、数十メートルと極めて低いため、防空レーダーで探知することができず、迎撃が極めて難しいのです。極端に低い飛行高度を可能とするのが、GPSとデジタルマップを組み合わせたポジショニング、ミサイル先端部に装備されたカメラやレーダー、高度計などあらゆるセンサーを駆使した航法システムです。

 いつどこから飛んでくるかわからず、対処が極めて困難なわけですから、攻撃を受ける側からすると、相当の脅威です。

 我が国政府の公式見解は、「現在、自衛隊は敵基地攻撃を目的とした装備体系を保有しておらず、現時点で保有する計画もない」というものであり、今回の巡航ミサイル導入に際しても、この点については変わりありません。つまり、巡航ミサイルの導入は、敵基地攻撃を想定したものではないという建前です。

 もっとも、従来からの政府見解は、敵基地攻撃は可能だとしています。敵基地攻撃は「予防攻撃」「攻勢防御」「反撃」に分類されますが、「予防攻撃」はいわゆる先制攻撃といわれるもので、我が国の憲法上も、国連憲章上も許されませんが、「攻勢防御」と「反撃」は問題ないとの解釈です。

 「攻勢防御」とは、例えば、某国が我が国を攻撃する意図が明らかで、弾道ミサイルの発射準備を行っている状況において、弾道ミサイルが発射される前にこの基地を破壊するような場合です。つまり、外形上は攻撃を仕掛けるように見えるけれども、それは防御のためのやむを得ない手段であるという解釈です。

 弾道ミサイル防御の手段として、現在我が国はイージス艦から発射するSM-3ミサイルと、空自のPAC-3ミサイルを保有しています。

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 イージス艦のミサイルは、弾道ミサイルを大気圏外で迎撃するもので、空自のPAC-3は、地上に到達する直前の高速の弾頭を迎撃するものです。いずれも簡単ではありませんし、PAC-3に至っては、撃破したとしてもその破片は地上に降り注ぐでしょう。また、核弾頭の場合、その影響を完全に排除することは難しいでしょう。

 巡航ミサイルは、弾道ミサイル発射前、あるいは発射直後のブースト段階にあるまだ低速の弾道ミサイルを撃破する手段を自衛隊に与えることになります。事前の確実な情報と、国家としての断固たる決意があれば、最も撃破が容易な段階で脅威を排除することが可能となるのです。

 このような話をすると、「自衛隊は外国を侵略する気か」と仰る方がいらっしゃるのでうんざりします。そんな意図があるわけありません。しかし、我が国民の命を守るため、弾道ミサイル発射基地を撃破するほかないとの結論が出ても、手段がなければどうしようもありません。というか、手段がなければ、検討すらしようがありません。

 外交面でも、弾道ミサイルを確実に無効化できる手段を持つことは、核による恫喝に屈することなく外交交渉を展開することを可能にします。

 小さなミサイルですが、我が国にとっては、戦後初めて手にする戦略兵器となり得る潜在力を秘めていると、私は思います。

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