あれこれdiary

海自OBによる偏見御免徒然あれこれdiary

「マイク、『総員起こし5分前』」

 

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  海上自衛隊用語解説シリーズの続きです。

 陸海空の自衛隊には、それぞれ日課が定められています。似ているところもあれば、全然違うところもあります。陸と空は比較的共通点が多いと思いますが、海は違うことが多いです。

 日課に限らず、海だけが違うというパターンは非常に多いです。その辺もおいおい紹介していきたいと思っています。

 さて、陸海空とも営内・艦内での日課は起床に始まりますし、起床時刻には「起床ラッパ」が鳴り響きます。この「起床ラッパ」は、陸海空共通です。このほか食事ラッパも共通です。

 起床ラッパがどのようなものかについては、この動画を御覧ください。

ord.yahoo.co.jp

 ラッパは陸海空共通ですが、朝起きることを、陸空は「起床」と言いますが、海は「総員起こし」 と言います。聞いたことがあるかもしれませんね。

 陸海空とも、日課や行事、訓練などに際しては、開始時刻の5分前には集合・整列し、開始時刻には全力を発揮できるように、隊員は躾けられています。自衛隊以外でも「5分前の精神」などが推奨されているところが少なくないのではないでしょうか。

 5分前に集合完了するという躾け事項は、陸海空共通なのですが、ここでも海だけが異なる部分があります。それは、何かにつけ、「・・・・5分前」の号令がかかることです。「自衛艦旗揚げ方5分前」「課業始め5分前」「課業やめ5分前」などなど、5分前という号令詞が艦内放送、館内放送で達せられます。

 海上自衛隊で勤務していれば、全く自然なことなのですが、陸空自衛官をはじめ部外の方からすると、非常に違和感があるようです。

 なかでも、「なんで?」と言われるのが、「総員起こし5分前」です。読んで字のごとく、起床時刻の5分前にこの号令が艦内・館内放送で令されるのです。「だったら、その時点で起きたらいいだろ!」と思いますよね(^^)

 入隊直後の教育訓練を行う「教育隊」などでは、起床ラッパが鳴り終わるまで絶対に起床動作に入ることを許されません。新隊員達は、「総員起こし5分前」の号令ですでに目覚めているにもかかわらず、ベッドのなかでじっと起床ラッパがなるのを待つのです。

 ラッパが鳴り出しても動いてはいけません。ラッパが鳴り終わり「総員起こし」の号令がかかって、初めて起床動作に入ります。起床動作とは、作業服あるいは戦闘服を身につけ、使用していた毛布とシーツをたたんでベッドの端に概ね綺麗に積み重ね、隊舎の前に集合して日朝点呼を受けるまでの動作を言います。数分でこれらをやらねばならないので、彼らは、「総員起こし5分前」から「総員起こし」までの5分間に、何度もイメージトレーニングをしています。

 これを毎日繰り返していると、動作に無駄がなくなり、緊急時のレスポンスがとても早くなりますし、メンタルが強くなります。

 三宅由佳莉さんも、教育隊での訓練期間中は、毎日「総員起こし5分前」を聞き、起床ラッパが鳴るのをじっと待っていたことでしょう。

 さて、記事タイトルにある「マイク」とはなんでしょうか? マイクとはまさにマイクなのですが、意味しているのは、「今から号令詞を艦内(館内)放送で令するのでマイクの準備をせよ」ということです。

 命令は、指揮官が発するものですが、日課号令については、あらかじめ指揮官が定めた日課(日課も命令の一つです)に基づき、当直士官が指揮官の代わりに令します。

 そこで、当直士官は、当直海曹または当番(当直の海士のことです)に対し、「マイク、総員起こし5分前」と令し、それを受けた当直員は復唱して確認したのち、マイクのスイッチを入れ「総員起こし5分前」と放送します。

 このようなことから、海上自衛隊では、艦内・館内放送のことを、一般に「マイク」と呼びます。「さっきマイクが入っただろう」という使い方です。海上自衛官は普通に使っていますが、部外の方からすると「はぁ?」という感じなのではないでしょうか。

 三宅由佳莉さんのインタビュー番組などでも、たまたま入った館内放送のことを「マイク」と言っている場面がありました。

 参考になりましたでしょうか?