あれこれdiary

海自OBによる偏見御免徒然あれこれdiary

音楽隊という戦力

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 海上自衛隊には、三宅由佳莉さんが所属する東京音楽隊のほかに、5つの地方音楽隊が置かれています。いずれも、自衛官により編成される「部隊」ですから海上自衛隊の戦力の一部です。

 しかし、武器の代わりに楽器を手にする彼らは、いったいどのように戦うのでしょうか。

 前回、「三宅由佳莉さんの、『歌姫』への道」でもご紹介したとおり、海上自衛隊音楽隊の任務はつぎの3つです。

retcapt1501.hatenablog.com

  ①隊員の士気高揚のための演奏

  ②儀式・式典における演奏

  ③広報のための演奏

 これら3つの任務が、どのように導かれたかを考えると、彼らの戦い方が自ずと理解できます。

 平和とは、争いのない状態に過ぎませんから、争いが起らない手立てを具体的に講じない限り得られませんし、維持することもできません。理念だけで積極的に作り出せるものではないのです。

 我が国の平和を維持するための具体的な手立てとは、我々日本人が、この国の独立を守り抜くことができるということを周辺国に認識させることです。ここに疑義が生じると、周辺国は不安になります、「独立が危うい日本がどこかの国に支配されるかもしれない」。疑心暗鬼が始まり、自国に有利な形で情勢を安定させようとするので争いが起きるわけです。

 席が埋まっている電車の中で、つり革につかまっている人たちが、誰かが席を立ちそうな素振りをみせた途端、そわそわし出すのと同じことです。

 「独立を維持する」という意思表示の、最たるものが自衛隊の保持なのですが、それだけでは十分ではありません。その自衛隊が、我が国の独立を守る実力を備えていることを、周辺国に認識させることが重要です。

 そのためには、精強な部隊を育成・維持するだけではなく、自衛隊が、国民から強く支持されていることがとても大切なのです。いくら精強な部隊でも、国民の支持を失っていたのでは、戦い抜くことはできません。国民の自衛隊に対する支持は、そのまま国民の、我が国を守り抜くという意思の表れですから、大切な防衛力なのです。

 そこで、音楽隊の任務です。

①隊員の士気高揚のための演奏  精強な部隊は、隊員の高い士気によって維持されます。ですから、隊員の士気高揚のための音楽演奏が、音楽隊の任務として導かれています。

②儀式・式典における演奏  諸外国軍隊の高官が防衛省を訪問する際、特別儀仗と栄誉礼で出迎えますが、その演奏を行うのが音楽隊です。自衛隊の部隊を代表して、儀式・式典を整斉と遂行することによって、自衛隊の士気の高さを諸外国に示すことになります。こういうところを、訪問者はよく見ています。

③広報のための演奏  そして、大切な防衛基盤である国民の自衛隊に対する理解と支持を広げるために、与えられた任務が、広報のための演奏です。

 こうしてみると、東京音楽隊をはじめとする各音楽隊が、一年を通じ全国各地で頻繁に行っている演奏会の意義がわかっていただけるのではないかと思います。

 東日本大震災での、自衛隊の活動に対し、国民の間に圧倒的な支持が広がりましたが、周辺国軍隊は、大きな関心を寄せていたようです。国民の支持を受けている自衛隊は、本来の実力の2倍にも3倍にもなるからです。

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 震災という悲劇が契機となったことは心痛むことではありますが、三宅由佳莉さんの「祈り」という曲が、やはり圧倒的な支持を得たことで、海上自衛隊東京音楽隊による広報演奏への関心が集まり、海上自衛隊をはじめ自衛隊に対する理解と支持が引き続き広がり続けていることが、我が国の平和の維持に大きく貢献していることは間違いありません。各国情報機関が、この現象にも大きな関心を寄せているのは間違いないと思います。

 YouTubeにアップされた動画へのコメントや、2chなどで、音楽隊の演奏や三宅由佳莉さんの歌について、

「こいつらは、こんな演奏やるだけで給料もらってるんだろ?いい身分だな」

「税金の無駄遣い」

 など、批判のコメントも見かけます。

 しかし、私は思います。国民の関心を集め、幅広く演奏活動を続けることで、国民の支持という重要な防衛基盤の拡充に貢献している彼らは、何兆円もの防衛費に匹敵する大きな戦力であると。