あれこれdiary

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杉浦日向子さんとソ連による「ソバ屋で憩う」

今週のお題「読書の秋」

 もうすぐ秋の新蕎麦が出回る時期がやってきます。蕎麦好きには待ち遠しい季節ですよね。今回ご紹介するのは、杉浦日向子さんと「ソ連」による「ソバ屋で憩う」です。

 杉浦さんは、しっかりした時代考証に裏打ちされた文芸漫画というジャンルを確立された漫画家であり、江戸風俗研究家としても有名でしたが、平成17年に下咽頭癌のため46歳の若さで亡くなりました。35歳の時に「隠居生活に入る」と宣言して漫画家を引退されましたが、実際には癌の治療のためだったことが死後明かされました。大病と戦いながらも、江戸風俗研究家の面目躍如たる粋な身の処し方だと思います。

 「ソ連」とは?もちろんロシアのことではありません。ソビエト連邦が崩壊した平成3年に、杉浦さんが立ち上げた「ソバ好き連」の略称です。江戸時代には、盛んに行われた様々な趣味のサークルを「連」と称したのだとか。洒落た遊び心が感じられます。

 さて、サブタイトルとして「悦楽の名店ガイド101」とありますが、杉浦さんは、まえがきで「グルメ本ではありません。おとなの憩いを提案する本です。」と仰っています。もちろん、東京を中心とする101店舗の紹介というスタイルで書かれてはいますが、そもそも、20年近く前に書かれたものであり、紹介されているソバ屋が、未だに営業しているのかどうかすら定かではありません。

 それでも、私がこの本をお勧めするのは、蕎麦とお酒をこよなく愛した杉浦さんが、ソバ屋で至福の時を過ごす楽しみを綴った一冊だからです。蕎麦好き、酒好きならではの視点で語られる、それぞれのお店の蕎麦の味わいや、酒の肴などの話題に加え、江戸風俗研究家、時代考証家の目でみた、店の佇まいや周辺の街並みの考察なども興味をそそられます。また、各所に挿入される、合計20のコラムや、ソ連メンバーによる座談会のやりとりなどからは、蕎麦(ソバ屋)に対する深い愛が伝わってきます。

 「ソバ屋で憩う」楽しみに共感を覚える蕎麦好き、ソバ屋好きの方には、息抜きにうってつけの本だと思います。 

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