あれこれdiary

海自OBによる偏見御免徒然あれこれdiary

「いざ」という時

 暑いのか涼しいのか、よく判らない日々が続いていますね。気候変動が取り沙汰されるようになって久しいですが、日本の四季も、徐々にその風情を変えつつあるのかもしれません。それでも、夜の帳が降りたいま、窓外に静かに響く虫の音が、昔と変わらない季節感を届けてくれているので、なんだかホッとします。

 さて、冬の寒い日も、夏の暑い日も、私が出勤時に毎日続けていることがあります。それは、地下1階から、8階の事務所まで階段を使って登ることです。もちろん、足腰を鍛えるためなのですが、何故鍛えるかが問題です。

 職場の同僚には「健康のため」と言ってますが、正直に言いますと「いざという時のために鍛えておこう」という思いがあるんです。でも、現役でもないのに「いざという時」ってなんだよ、と考えると、自分でも笑えます。笑えますが、そういうマインドでいないと心の座りが悪いのも事実です。習い性なのでしょう。

 「いざ」という時で思い出すのは、私が防衛省統合幕僚監部の運用部というところで勤務していた時の話です。ある日の午前中に、運用部長のH空将が部の全幕僚を集めて訓話をされました。いろいろ機微にわたる話もありましたが、私が一番印象に残っているのは、「自衛隊の実力が試される時は、必ずやってくる。刻一刻とその時は近づいている。したがって、いついかなる時、いかなる事態に対しても陸海空自衛隊の部隊が全能を発揮できるよう、あらゆることに思いを致し準備せよ」というものでした。

 奇しくも、その日の午後、東日本大震災が東北地方を襲ったのでした。

 自衛隊は、創設以来初めて統合任務部隊を編成して、この大災害への対処にあたりましたが、それは、他の地域での大規模震災に備えるために予め作成されていた、統合任務部隊の運用構想や災害対処計画がベースとしてあったからこそ、円滑に運用することができたのだと思います。

 かつて、ある代議士先生が、防衛力整備に関し「備えなければ憂いなし」との迷言を得意気に語っておられましたが、反論する価値すらないと考えるのは私だけでしょうか。

 海上自衛隊儀礼曲に「海の防人」というのがあります。護衛艦への自衛艦旗授与式等で演奏される厳かな曲ですが、海上自衛官でもこの曲に歌詞があることを知る人は殆どいなかったと思います。

 最近、東京音楽隊三宅由佳莉さんが歌うようになって、次第に浸透しつつあるようですね。三宅さんが、前回の観艦式の際に「いずも」艦内で歌っている動画がありました。

https://www.youtube.com/channel/UCDzqedps7vzMoBaItiDMRBA

www.youtube.com

とてもいい歌詞なのでここに紹介します。いざという時に備える心も歌われています。

一 新たなる光ぞ

  雲紅(あか)き日の本の

  空を、富嶽を仰ぎて進む

  我らこそ海の防人

二 くろがねの力ぞ

  揺るぎなき心もて

  起ちて鍛えて、弛まず行かん

  我らこそ海の防人

三 永久(とこしえ)の平和ぞ

  風清き旗の下

  同胞(とも)を国土を、護らでやまじ

  我らこそ海の防人

 

 この歌は、海上自衛隊の前身である海上警備隊の隊歌として編まれ、海上自衛隊に引き継がれたものです。つまり、帝国海軍や今の海上自衛隊と比べれば、はるかに見窄らしい艦艇や装備しかなかったにもかかわらず、海の防人を自認して、気高くあろうとした心意気が伝わってくるようで、ちょっとグッときます。